みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

誰もいわない20世紀のおはなしをひとつ:VariousArtists『Lipstick Traces』

nomrakenta2006-11-06

本コンピ盤asin:B0000083JDソニック・ユースのデビュー・アルバム(Confusion is Next)をメジャー誌でいちはやく評価したり(意義ある拒否の態度、と評価)、エルビスプレスリー本(たしか『Mystery Train』)を書いたり、ひところは日本の音楽誌「ミュージックマガジン」にもコラムが寄せられていた米の著名なロック評論家(というよりサブカル評論家)グリール・マーカスが書いたダダからアパラチアン・フォークソングニュー・オリンズ、80年代のパンク・バンドまでをまとめた文化史本『A Secret History of the 20th Century』ISBN:0571212883フトレードが1993年にリリースしたもの。
平たくいえば、セックス・ピストルズが「アナーキーになりた〜い」と調子っぱずれに駄々こねてみせたことでロックにとどめを刺した、などとはもはや誰も恥ずかしくて言わないんでしょうが、では、もし彼らが過去から断絶しているようでいて、やっぱり何らかの伝統を引き継いでいたのだとしたら、それは何だったのか、ということになりましょうか・・・(あんまし平たくない)。要はダダ・パンクです。
ちなみに曲目リストは以下のとおり。

1 : SLITS: "A Boring Life."
2 : ORIOLES: "It's Too Soon To Know."
3 : TRISTAN TZARA, MARCEL JANCO, RICHARD HUELSENBECK: "L 'Amiral cherche une maison a louer."
4 : JONATHAN RICHMAN: "Road Runner."
5 : GUY DEBORD: Excerpt from soundtrack to Hurlements en faveur de Sade.
6 : THE ROXY, LONDON: Ambience.
7 : JEAN-LOUIS BRAU: "Instrumentation Verbale (Face 2)."
8 : BUZZCOCKS: "Boredom."
9 : ADVERTS: "One Chord Wonders."
10: RAOUL HAUSMANN: "phoneme bbbb."
11: GANG OF FOUR: "At Home He's A Tourist."
12: ADVERTS: "Gary Gilmore's Eyes."
13: KLEENEX: "U (angry side)."
14: GUY DEBORD: Excerpt from soundtrack to Critique de la separation (Dansk-Fransk Experimentalfilmskompagni, 1961).
15: CLASH: Stage talke, Roundhouse, London, 23 September 1976.
16: MEKONS: "Never Been In A Riot."
17: LILIPUT: "Split."
18: PETER BLEGVAD, et al: "rohrenhose-rokoko-neger-rhythmus."
19: ESSENTIAL LOGIC: "Wake Up."
20: KLEENEX: "You (friendly side)."
21: GIL J. WOLMAN: "Megapneumies, 24 Mars 1963 (Face 1)."
22: RAINCOATS: "In Love."
23: GUY DEBORD: Excerpt from soundtrack to Hurlements en faveur de Sade.
24: MARIE OSMOND: "Karawane."
25: BASCAM LAMAR LUNSFORD: "I wish I was A mole In The Ground."
26: MEKONS: "The Building."
27: BENNY SPELLMAN: "Lipstick Traces (On a Cigarette)."

90年代後半からのCDでのリイシューラッシュが始まるまでは、ここでしか(少なくとも私は)聴けなかったJONATHAN RICHMAN: "Road Runner."(これはアコースティックVersion)、13: KLEENEX: "U (angry side)."19: ESSENTIAL LOGICなどダダ色(つまりアートスクール色)を濃厚に覚醒遺伝しているパンク勢の貴重なコンピとしても聴けることはもちろん、トリスタン・ツァラやラウル・ハウズマンなどオリジナル・ダダイスト共の音声詩の歴史的パフォーマンスも収録。
決して大規模に組織化され、公式文化となることなく飛び石のように連なった20世紀の裏文化の血脈を指差して、マーカスが言いたい事がなんとなく伝わってくるし、「20世紀の秘された物語」の線が決してこのコンピに選ばれた者たちで辿れるのではなくて、それこそ読み取る人の数だけ可能な筈なのだ、さあやってみなさいと言っているような気もします。そういう意味でも、このサントラの印象を豊かなものにしているのは、憂いをたたえたORIOLESやBASCAM LAMAR LUNSFORD、BENNY SPELLMANなどの60年代のヒットソング。こんな曲を挟みこめるだけで、只者ではないと思ったもんです。「Lipstick Traces on your cigarette〜」というユーモラスな懐メロとバズコックスの「Boredom,boredom,BOREDOMS!」というひねた攻撃性が同じように楽しめたらば、合格なのか、と。

そして、個人的に、何故このコンピに入らなかったのか理解できないのがこのバンド、オルタナティブTV。バンドHP

Image Has Cracked-Punk Singles Collection

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リーダー、マーク・ペリーは世界初のパンクファンジン『Sniffin' Glue』を創刊、ロンドンパンクをその始まりから盛り上げ、自身の結成したバンドの「ピストルズからグラムの要素を剥ぎ取ったような」と評された、LOVE(ジャケ写に「Forever Changes」のLPが写ってます)やCANやレゲエ、ラモーンズをいっしょくたに呼吸した若者達なら当然こうなるだろうと思えるような音は、スロッビング・グリッスルとも共演しちゃうような不定形のポリシー。3大パンクバンドみたいな華はないし、やりたかった音を全部やれてるわけでは決してないけれども、徹底した「Do It Yourself」精神に基づく痙攣するPOP精神が、このデビューアルバムを今聴いても瑞々しいものにしています。P.I.LとThe Undertonesの中間とかそんな風には言いたくない、このバンドの心意気こそ核なんだ、とあえて言ってみたい。Thee Headcoatsが名曲『Viva La Rock 'n' Roll』をカヴァーしたのは嬉しかった。