みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

ぷあ・りとる・あるふぃーTry to Draw:ロバート・ワイアット『Old Rottenhat』

昔は近所のレンタル屋が洋楽CDを見限って放出(レンタル落ち)すると、もう、ひとりで大騒ぎだった。当時はまるで知識がないのでカンで選ぶのが楽しくてしょうがなかった。そこへこのジャケ絵のなんとも素朴な抽象画。カンディンスキーは好きになれないがこれならいける、と。クレジットを見るとアーティストの奥方が描いた様子、そういうエピソードに弱いのです。
歌詞カードを読むと「健忘症のUSA」「東ティモール」など、辛辣で政治的な歌詞が多いようだが、音楽自体は割と茫洋としてアジテーションという感じとはちょっと違った。音作りは簡素といってもいいだろうし、詩情あふれるというよりも、芯のぶれないものが自分自身にさえ容易には耽溺しないという印象を持ったし、一筋縄ではいかない、というよりも、一筋の縄をよるために血の滲むような試行錯誤を繰り返す人のようにも思えた。愛妻を歌った最後の小曲「P.L.A.(poor little Alfie)」の愛らしさも、何やらシニカルな後味で大人の関係(?)を暗示しているように思えた。
ロバート・ワイアットが、後に「カンタベリー系」といわれるような英国ロックの豊饒な時代に、兄弟ともいえるような仲間達と始めたソフト・マシーンを半ばクビ同然で止めざるを得なくなり、パーティーで酔って転落、車椅子の生活を余儀なくされてからのソロ活動の始まりは、同時に政治運動の傾斜でもあったとか、ブライアン・イーノの「Music For Airport」で最高にミニマルで美しいピアノを弾いているのもワイアットだとか、名盤「ロックボトム」の収録の「Sea Song」は、子供の頃「Shout」が大好きだったティアーズ・フォー・フィアーズもカバーしていのだとか・・・歌だけを武器にセカイと対峙する「車椅子の静かな闘士」とか、そういった後知恵を全て取り去ってしまうと、僕はこの人の声が怖かったんだと思う。ただただ、高く震え続ける声とキーボードの演奏だけでアルバム全部を埋めてしまうこの人が、いったいぜんたい怒っているのか、泣いているのか未だによくわからないのだ。

Soupsongs

Soupsongs

そんなわけで、一番よく聴いているのは多分このトリビュートライブ、というヘタレなワイアット・ファンではあります。