みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

読了:京極小説『邪魅の雫』

昨年の9月ごろの出版誤報からかなり待たされた。いりいりしてた人も多かったろう。あいかわらずの厚さ。携帯電話の幅とほぼおんなじ。前回の『陰摩羅鬼の瑕』の展開の読みやすさにちょっとパワーダウンな印象をもっていたが、今回は盛り返した印象が。
まあ、本シリーズ2巡目で大団円という巷間の定説(?)が正しいなら、2巡目の中ではこの巻がスケールを増した2作目『魍魎の匣』にあたるので、それも当然か。いつも傍若無人な探偵が元気がないのも、そういった意味で厚みになっている。戦中戦後の実際の事件(今回は帝銀事件)や旧日本陸軍ネタも中核に位置している。
毎度の憑き物落としの饒舌な薀蓄は今回ちょっと短めだが、質は落ちていない。ウラジミール・プロップの「昔話の形態学」(ISBN:489176208X)並の物語の機能論。おもしろかった、が、『魍魎の匣』や『鉄鼠の檻』の時のように強烈な情景のイメージは残さない。京極堂シリーズの醍醐味は複雑すぎるプロット自体が奇怪であり、それが毎回起用される「妖怪」の名前としてまさに妖怪の命名の瞬間に立ち会っているかのような錯覚が目に浮かぶような瞬間を言葉によって持続させ、最後に主人公「京極堂」によって解体される点だが、今回それがプロットで精一杯という感じがしないでもないのが少し残念ではある。