みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

牛心隊長の弟子:モリス・テッパー『Big Enough To Disappear』

誰にでも、今振り返れば特に突出した出来でもないのにどうしても引っかかってしまった音楽(LP、CD)があり(その思いを他人と共有するのは難しい類の)その枚数がその人のリスナーとしての幸福度を示すんではないかとも思うが、これは私のそんな極私的名盤の一枚。
「Doc At The RadorStaion」以降のマジックバンドの現PJハーヴェイ・バンドのギタリストが、フランクブラック、ロビン・ヒッチコックのアルバムへのゲスト参加を経て1996年発表したソロ第一作。なんとちゃんと日本盤がでていた。
マジックバンドを彷彿させるトリッキーな曲もあるが、基本は、2. Bankshotや7. Big Enough to Disappear、8. (If You Really Want To) Hurt Someone、10. Scratch O' Life などバーズを引き合いに出されていたほどの実直でハートフルな曲が核にある。隊長と同じく濁声ブルースタイプだが、そのアヴァンギャルド度は師匠ほどは灼けつかず、むしろいい湯加減の「歌心」で包み込むトム・ウェイツのようなSSW系アーティストに近いかもしれない。そんな中途半端とも取られかねないスタンスに、こちらは程よいまどろみを見つけてしまったのだろう。甘酸っぱい挫折感もちゃんと歌えてハートフル。おどけた風情にキリキリとした悲しみを滲ませる。
このアルバムと同時期に別ユニット「エッグトゥース」による唯一のアルバム「Eggtooth」(ティム・バートンが演出した奇妙なカーニバルといった趣向のストーリーアルバム)があり、その後ソロアルバムも「Moth To Mouth」(未聴)と「Head Off」(バンド色強)の2枚が出ている(が日本盤リリースはない)。
「マジックバンドでは、最初、何日も部屋に閉じ込められて、ミシシッピ・フレッド・マクダウェルの『Red Cross Store』という曲ばかり延々と弾かされていた。」「このアルバムは俺のハートの集大成」(当時のインタヴューより)

これも師匠と似ているが、テッパーは絵描きでもある。
モリス・テッパーのHP