みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

美は乱調にあり:キャプテン・ビーフハートと彼のマジックバンド『Doc at The Radar Station』

牛心隊長(で、はてなキーワードがあるとはさすが)のアルバムをどれか、と訊かれれば裏ロックファンはよだれを垂らしていろいろタイトルを挙げるに違いないが、そんなことは現世ではほぼ起こらない。なので、ここで挙げてみようかと。
通常入門ディスクガイドみたいな本で隊長の歴史的名盤といわれるのは、ハウリングウルフのブルースとアルバート・アイラーのフリージャズの混血といわれる「トラウトマスクレプリカ」だが、それはどうかと。個人的にはじめて「隊長ついてくぜ!つうか掘り返すぜ!」と思ったのはパンク・ニューウェーブ期にリリースされたこちら。「トラウト・・」のとろけたヒッピー幻想(←たいへん失礼な表現で、われながら引く・・汗 2009追記)が楽しめるようになったのはもうちょっと後の話。そんな人多いんでないかと思う。
今はなき梅田フォーエバーレコードメタリックワックスにてレコジャケを見つけたときは、まず、その人物の顔をマットブラックで角度もきびしく塗り潰したジャケに震えましたっけ。そして帯には「美は乱調にあり」。・・・大杉栄ですか?!
内容は時勢を反映して、ギターの音が鋭角的に目立つ。このへんパンク好きには受けが良いはず。面子も古強者のジョン・フレンチもいるし、「Bat Chain Puller」からの新人モリス・テッパー(現PJハーヴェイ・バンド。この人のソロは良い。)が新味を。
一曲目の「Hot Head」からしてグンキャングンキャンいうリフと複雑骨折したようなアンサンブルが突進するものに、隊長の湿り気とか色気というものから最も離れたところにあるであろうダミゴエが地を這うもので、マジックバンドの従来のサウンドを当時のパンクに浮かれる餓鬼どもに向けてアップデートしたものとの解釈も可。
「Ashtray Heart」「Sherif of HongKong」など佳曲が並び、隊長のボーカルとマジックバンドの音が奇跡の間合いをとりつつ押し通るさまは単純に快感だ。かつて「Peon」と呼ばれていたミニマルインストの小品「Carrot Is as Close as a Rabbit Gets to a Diamond 」も可愛いのか不気味なのかよくわからない魅力を発している。このアルバムがかっこいいと思えなければ隊長の音楽とは縁がないとあきらめたほうがいい、などと暴言を吐いてもみたくなる隊長の音楽活動後期の傑作。