みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

『現代音楽とコンテンポラリーダンスの出会いアルディッティSQ+ケージ+白井剛「APARTMENT HOUSE 1776」』

nomrakenta2006-08-27


待望の生ケージ+アルディッティ。舞踏に関しては全く予備知識ありませんでしたので、その効果については内心恐々でした。
ケージの「アパ−トメントハウス1776」は、建国200周年記念として1976年に作曲され、アメリカ建国当時の教会音楽や行進曲のハーモニーの断片がアトランダムにリミックスされたようなオーケストラ作品ですが、これをアルディッティが弦楽四重奏用に編曲したもので「44のハーモニー」としてこちらのCDに収録されていますが、

The Works for Violin Vol.6 / The String Quartets Vol.4, 44 Harmonies From Apartment House 1776; Cheap Imitation

The Works for Violin Vol.6 / The String Quartets Vol.4, 44 Harmonies From Apartment House 1776; Cheap Imitation


今回は、ダンスとのコラボレーションで上演時間1時間という制約もあり、20のハーモニーのみの演奏でした。
手渡されたプログラムに挟み込まれたビラには親切にも小沼純一氏の解説が。

ケージの沈黙や偶然性、ノイジーな部分などとっつきにくい面はいろいろあるかと思いますが、この「44のハーモニー」は、そういったものと無縁で、とにかく雲のようなハーモニーが生起しては、消えていき、また立ち昇ってくるもので、ひとつひとつのハーモニーの断片には物語的な展開はありませんが、それだけにハーモニーごとの些細な動きが美しいといっていい作品です。
間が割りと多いので、どこか剥落の多い古代壁画を見るような印象ですが、実際は、呼吸を整えて一音一音に向かうための鼻息まで聴こえてくるほどで、欠落と思えたものが、逆にハーモニーごとのグラデーションに作曲家あるいは編曲者のタッチを活き活きと映し出している事に気づきました。
容易に展開しない各楽章の断片性が、聴き手の音楽の物語化をやさしく阻み、控えめな旋律或いは響きそのものへの聴取に引き寄せますが、だからこそその響きそのものを現れ方にロマンティックに耳そばだてる喜びもあったりします。
音楽のネオテニー?とすれば、この古楽のような響きは?
この耳あたりの良さと滋味の深さは、ひょっとすると、ケージの音楽の新しいスタンダードになる可能性もあるかと。
奏法で特に気になったのは、おそらく17と20番目のハーモニーだと思うのですが、弦を楽器上で静かに動かして、擦れ果てた吐息のような音、殆どソプラノサックスから出る蟻の吐息みたいな音を出すところがあるんですが、これは特殊な奏法なんでしょうか?ドキッとするような美しさがありました。


ダンサーは、音楽の周縁をめぐるように、どこかアンビバレントな感情を含んだように痙攣的な動きでされていまして、銀色の風船や紙飛行機などの小物で、カルテットの音楽と共演しようとしているような感じ。
極めて日常的に身体の動きを模写すりようなダンスに見えて、シャツが見る見るうちに汗でぐっしょりに。演奏者の面前で卒倒するように倒れてみせるアクションでも全身の筋肉を使って、極力音が出ないようにしているのは素人目にも流石。
この目に耳に表層上は見えにくいコントロールは、音楽にも共通するもので、それが全体の弛緩とも極度の緊張ともとれそうな空気を支えていました。


全体の演出は、後半開始時、カルテットが首のあたりにそれぞれ銀風船をつけて登場したように、控えめな悪戯感を持ったものだったと思います。
アーヴィン・アルディッティが意外とお茶目な印象なのが軽く驚きでした。
それにしても・・・・一時間というのは物足りないかなあ・・・。