みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

Christian Wolff 『Tilbury (Complete); Snowdrop』

現代音楽のCDは、ヴィジュアル・イメージで損をしているパターンが多すぎる。素晴らしい内容に比してこのジャケットは・・・と絶句してしまうこともよくある。そんな中で、Modeのデザインは、いつもやりすぎず、下手な色気も出さず、核心を押さえたデザインで好ましいが、ウォルフのシリーズは特にいい出来かと。もちろん、ウォルフのルックスがいいからだが、内容に関して素直に聴く気になる。この盤もそういった一枚。

『Tilbury (Complete)』は、AMMのピアニスト、ジョン・ティルベリーに因んで名づけられたシリーズで、クレジットを見ると、1〜3は1969年に、4は1970年、最後の5は1996年に書かれている。1969年はAMM的にいえば、前年の1968年には、ティルベリー自身はまだ未参加だが、コーネリアス・カーデュー参加で圧倒的なノイズ即興を行った「The Crypt - 12th June 1968」が収録されている、と書くと、AMMの影響を受けて、切れ目の無いノイズが延々・・・と思われるかもしれないが、むしろ、ウォルフ自身がライナーで書いているように、当時音楽でも*1美術でも*2隆盛を極めていたミニマリズムのドラスティックな「限定」手法の影響が濃い。極端に絞り込んだ音数で、例えば、Xの音は54拍毎に、Yの音は29拍毎に鳴るという感じで、複数の異なるシステムによるサウンドが重なり合うこと(例として、太陽系の運行システムが挙げられている)が企図されているようだが、ライナーを読むかぎりは、その他の演奏方法については殆ど即興するようになっているとも書いてあり、これではかなり無作為な出来が予想できるが、ここで聴かれる結果は、音色やピッチが相当限定されているためか、沈黙が大目で風通しが良く(良過ぎ?)、一つ一つの音の余韻が十分に広がっては消え、また気付かないうちに立ち上っている印象を受ける。
「Snowdrops」も同じくミニマリズム的発想を上記のような書法で処理したもののようだが、こちらは「Tilbury」シリーズよりもデフォルトの音数が多いためか、ピアノと弦と管の絡みが多めで、野外で遠くに聴く室内楽(?)といった趣の仕上がりになっている。
最後の「Tilbury」の5は、今回の演奏者3人のリクエストによって書かれたらしく、フォークソングをそれとわからぬ程度にベースにしたり、1930年代のハンス・アイスラーによる反ファシストソングからの引用もあるようで、時折現れる協和的なフレーズの断片がそうなんだろうか。1〜4が書かれたミニマリズム志向からは若干離れているようだ。ティルベリーとは長く政治的な関心を共有していたとも書いているが、そういった先鋭的な意識をここまで捉えがたい音楽として現前させてしまうことも、ある意味で非常に政治的な態度と言えるのかも知れない。
「Burdocks」もそうだったが、かなり趣味性を排する書法の筈なのに、逆に、神経が行き届いたような静謐さに結果的に聴こえてしまうのは、ウォルフの作曲家としての特質なのだろうか、それとも演奏者の解釈の問題(つまり美意識)が大きいのだろうか。その辺りへの興味がつきない。

*1:テリー・ライリー、スティーブ・ライヒ、クリストファー・ホッブス等の名前を挙げている

*2:こちらはソル・ルウィットの名を。