みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

木内昇『地虫鳴く』

新撰組ものだが、これは、一般的に知名度が低い阿部十郎の視点で語られている。他には、新撰組から袂を別って暗殺された伊東甲子太郎御陵衛士一派(阿部も加わった)や、監察方の尾形、山崎などの、どちらかというと脇役的な人物の側から、幕末の時期を切り取った珍しい視点のものといえる。
幕末は、いろんな人間の顛末が凝集していて、自分のようなにわか歴史小説ファンとしては、興味がつきない時代だ。
この小説では、普段は脇役の人物に重心を置いた形で、時代を掴みそこねたり、あるいは、勤皇思想に乗り切れない距離を感じながらも関わらずにいられなかった男たちの、この上もなく地味な物語になってはいるが、その中でも阿部のどっちつかずの焦燥などには、今だからこそ共感できるものがあるのでは。