みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

井上靖 『本覚坊遺文』

ずっと読みたくて探していたら、近所のブックオフで見つかった、しかも100円。ほとんど幻想譚といいたくなるほど、夢うつつな雰囲気が充満しているが、切々と浸み込んでくるものがある本だった。ちなみに井上靖の小説は初めて読む。語り手の本覚坊は実在の人物だったようだが、小説の元になっているような遺文は存在せず作家の創作である様子。
本覚坊のバカ丁寧で切々とした語り口と対照的に淡々とした日記調の語り口が交錯して現れ心地よいメリハリをつけてもいる。
秀吉はなぜ利休の切腹を命じたのか?利休の侘茶とはなんだったのか?いかに枯れるか?あるいは枯れるとは何か?謎は謎のまま最後に真相の気配のようなものを垣間見させて終わるが、なんらかの実感は確実に残してくれる。