吾妻ひでお「失踪日記」
冬に読むのに最適な本である。凍死寸前で筋肉が収縮してバキバキいう音など決して聴きたくはないが、壮絶なボディソニックであろうとは想像できる。しかもそんな凄惨な浮浪生活を、実に一定のタッチで淡々と描いてある。著者も語る通り漫画という性質上、相当ミュートして、事も無げに描いているのだと思うが、それでもところどころに日常の恐怖というか、日常が恐怖というか、ジワジワと滲み出てきている。実際、前半の浮浪者生活の描写の方が幾分快適めいており、失踪前→復帰後→再度失踪→強制入院と突き進むアルコール中毒の過程の描写の方がより一層恐ろしい。
吾妻ひでおは、とりみきなどからのリスペクトによってオタク的なもののオリジンとされているし、実際そうなのだが、オタクといわれる人間ジャンル(もちろん私も含む)に今最も欠けているのは、本書が描写を抑えることによって、逆に成し遂げてしまったような、たくましい生活感なのでは?